水戸市の「偕楽園」といえば、茨城県の観光地の代表格です。園内に植えられた約100品種3,000本の梅が咲きそろう2月中旬から3月中旬が最もにぎわいますが、「一年中、いつ訪ねても魅力がいっぱいです」と、自信を込めるのは、今回ガイドをしてくれる偕楽園公園課の研究員、瀬戸祐介さんです。
瀬戸さんと一緒に園内を巡る中で、偕楽園の魅力の再発見につながる3つのポイントを教えてもらいました。
①「旅気分を味わうこと」
②「偕楽園の造園コンセプトや、造園当時の人々の暮らしに思いをはせること」
③「偕楽園を造った徳川斉昭の才能を感じること」
「一張一弛」と書かれた手ぬぐいを持つ瀬戸さん
冬の好文亭
瀬戸さんと待ち合わせたのは、偕楽園の北側にある表門。常磐神社脇の東門を正面だという人もいますが、表門という名前の通り、こちらが表で、「正しい入り口といって良いでしょう」と言います。
瀬戸さんは、表門をくぐる10メートルほど手前の場所で、解説を始めました。
「ここから道は二股に分かれていて、左側に行けば表門で、右側は西の方向に進みます」。
瀬戸さんによると、右側の道は江戸時代からあったそうです。「当時、多くの人たちがこの道を通って江戸や、その先にも向かいました。ここは、水戸城から出た旅人がふと通りかかる場所でもあったのです」
その傍らにあるのが表門です。そして瀬戸さんは、「表門の先にも旅があるのです」といいます。偕楽園は、園内を歩くだけで全国を旅した気分になれるように造園されていて、今でもその感覚を体験できるといいます。
表門の先に広がったのは、“京都の景色”だと教えてくれました。頭上を覆うように茂り立つ孟宗竹(もうそうちく)は、京都から運び込んだものだそうです。現在は、1,000本以上が、年間を通して緑の景色を作り上げます。
南方向に進むと大杉森に入り、目線を上げると、常磐線の線路や車が行き交う道路、その先に桜山が見えます。暗い林の中から、それらは明るく輝いて見えます。「旅の途中で、山から眺めた景色に見えませんか?」と瀬戸さん。さらに歩くと、わき水が吹き出す偕楽園の名所「吐玉泉(とぎょくせん)」に着きます。「ここは、旅の途中でのどをうるおす場所でしょうか」。
次に、「この一帯は、日光を旅したときの印象を再現しているのかもしれません」と教えてくれました。殿様には行動の制限が多く、自由に旅ができなかったそうで、だからこそ、身近な庭園で旅を味わえるようにしたと考えられるそうです。そして、日光は、斉昭が訪ねたことのある数少ない場所の1つでした。
園内には、ほかにも“旅”の雰囲気を感じさせる場所があるといいます。
表門の前で、解説を始めた瀬戸さん
屋根のかやが美しい好文亭中門
「門を抜けると、また雰囲気が変わりますよ」
次は、好文亭の前を通り過ぎて、「偕楽園記の碑」を目指します。好文亭を通り過ぎるのは、江戸時代の入り口が現在とは別の場所にあったと考えられるからだそうです。
見上げるほど大きな偕楽園記の碑には、斉昭の文章が刻まれています。刻まれている言葉で最も有名なのは、「一張一弛(いっちょういっし)」です。一張一弛は現代語訳すると、「弓の弦を張ったりゆるめたりすること」になります。これは、斉昭が、偕楽園と弘道館を造った時のメッセージを象徴する言葉で、メッセージは、人が成長するためには気持ちを引き締めたりゆるめたりすることが必要であるということ。偕楽園は気持ちをゆるめる場所。弘道館は気持ちを引き締める場所として造られました。
瀬戸さんは、偕楽園記の碑について“裏情報”も教えてくれました。偕楽園記の碑の裏には、「禁條」という偕楽園を利用する際のルールのようなものが刻まれているそうです。内容は、「利用時間が日中だけ」ということ、「梅の木の枝を折ってはいけない」こと、「男女は別々に入場する」ということ、「お酒を飲み過ぎない」ことなどだそうです。
斉昭の文章が刻まれた偕楽園碑
続いて、好文亭の入り口に向かう前に、好文亭の南東側の内庭に行きました。ここから登った先が、好文亭の本来の入り口だったと考えられている場所です。周辺では5月になると、ツツジが見頃を迎えます。
見どころの多い好文亭の中で、瀬戸さんが感じてほしいものの一つに「斉昭の思考のスケールの大きさ」があるそうです。最上階の3階「楽寿楼(らくじゅろう)」に着くと、瀬戸さんは、畳の上に座るよう促しました。3階に登った段階で、周囲の絶景には圧倒されます。それが腰を下ろしたとたんに、何倍もの迫力で迫ってきました。
目前の千波湖と、その先には延々と続く町並みが望めます。右手を見ると、丸い富士見窓の先に木々の緑が広がり、かつては遠く筑波山が望めたそうです。
偕楽園には、日本庭園には欠かせないといえる「池」と「築山」がありません。瀬戸さんによると、斉昭が、千波湖と筑波山をそれらにみたてて設計したからだそうです。「斉昭の思考のスケールは、並外れています」。
好文亭3階の楽寿楼では、「畳の上に座ってみてください」
楽寿楼からの眺望
1階の各間にあるふすま絵も見応えがある
次に「仙奕台(せんえきだい)」向かうと、ここがガイドの最終地点でした。仙奕台は、好文亭から近い千波湖を望む丘の上にあります。好文亭が、偕楽園ナンバーワンビュースポットであるとするとナンバーツーは、「仙奕台です」。
「千波湖からの風は、夏でも涼しかったはず。冬は風が冷たい分、空気がすんで見晴らしが良くなる。今も昔も四季を通して楽しめる場所です」と話します。
仙奕台で振り返ると、広大な梅林が広がっていました。「梅林は花のない時期でも味わいがあるもの」と瀬戸さんはいいます。
例えば、梅林の各所にある老木も見どころで、「ちょっとした風で折れてしまいそうな様子ながら、しっかりと生きている。そんな姿を見た上で春の開花に立ち会うと、うるうると感動してしまうものです」と話していました。
「仙奕台で感じる風が好きです」
偕楽園
所在地: 水戸市常磐町1-3-3
電話: 029-244-5454(偕楽園公園センター 水戸市見川1−1251)
入園料: 大人320円、子ども160円、70歳以上160円
開園時間: 2月中旬〜9月30日は午前6時〜午後7時、10月1日〜2月中旬は午前7時〜午後6時
休館日: なし
好文亭
観覧料: 大人230円、子ども120円、70歳以上110円
休館日: 12月29日〜31日
観覧時間: 2月中旬〜9月30日は午前9時〜午後5時、10月1日〜2月中旬は午前9時〜午後4時半。梅まつり期間中は原則午後5時まで。
電話: 029-221-6570