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さんぽの
おとも道

〜 ひたちなか市民に愛されるローカル鉄道の魅力と取り組み 〜

全国津々浦々を走る、地域色豊かなローカル鉄道が話題を集めています。その中でも、多くの鉄道ファンや専門家からも注目を浴びている路線が、「ひたちなか海浜鉄道湊線」。勝田駅から阿字ヶ浦駅間の計10駅14.3キロメートルを結んでいます。現在、湊線の運営を担うのは市と民間企業が出資して設立した第3セクター・ひたちなか海浜鉄道株式会社。2008年に茨城交通より分社化、事業を譲り受ける形でスタートを切りました。
他の多くのローカル線同様、利用者減少の一途を辿っていた湊線でしたが、利便性の向上や斬新なタイアップイベントなどといった数々の試みにより、徐々に事業が好転。沿線に暮らす市民からの賛同を得て、地域と共生するローカル鉄道として愛されていることも大きな一助です。そんな湊線の魅力や、楽しみ方、そしてこれからのビジョンなどについて、ひたちなか海浜鉄道社長・吉田千秋さんにお話を伺いました。
インタビュアーは、ひたち海浜公園の中でも無類の鉄道好きを自認するスタッフ・内海光太郎。コアな鉄道ファンも足を伸ばす魅力から、ひたち海浜公園への旅がもっと楽しくなる湊線活用術まで。今回の「さんぽのおとも道」はふたりの対談形式でお届けします。

内海光太郎

ひたち公園管理センター企画一課課長。ランドスケープデザインの仕事を経て、公園管理の現職に移り、各地の公園に勤務。2016年にひたち海浜公園に着任。趣味は鉄道をはじめ、飛行機や車、バイクなど乗り物と旅について。ひたちなか海浜鉄道湊線にもプライベートで乗車するなど、鉄道の旅の魅力を満喫しています。

吉田千秋さん

富山県出身。富山地方鉄道、加越能鉄道、万葉線(いずれも富山県)勤務を経て、公募にて2008年にひたちなか海浜鉄道株式会社社長に就任。地域と手を取り合い共生する鉄道のあり方を推進し、廃線目前と言われた湊線の利用者増と事業改善に尽力。その結果とノウハウを他地域の課題解決にも活かす「ローカル鉄道・地域づくり大学」も主宰しています。国土交通省任命・地域公共交通マイスター。

ひたち海浜公園にも便利な湊線

内海>ひたち海浜公園の来園者について、自家用車でいらっしゃる方の割合が圧倒的に多いというデータがあります。特に例年ゴールデンウイークの時期は多くのお客様が集中するため、私たちは公共交通機関を利用しての来園もお勧めしています。個人的には、湊線の車窓がとても素敵だと感じますので、それ以外の時期にも湊線に乗ると楽しんでもらえるかなと。

吉田>そうなんですよね。単に鉄道で移動するだけではなく、道程で観光も楽しんでもらえるように我々も企画や情報を発信しています。また、街とも協力体制を敷いて取り組んでいます。例えば、那珂湊高校とタイアップして、レンタサイクルを大幅に増やす計画を進行中です。最終的には100台くらいまで…。ハイシーズンにはそれを阿字ヶ浦駅に置いて貸し出したりしたら、皆さんに快適で素敵な旅を楽しんでもらえるんじゃないかなと。

内海>それはいいですね!

吉田>他にも、旅行会社さんと協力して、阿字ヶ浦駅でケータリングやお土産の販売をしたらどうかなという計画もあります。

内海>今のお話を聞いていて思ったのですが、移動してくる途中の景色を眺めたり、駅から自転車を走らせて街並みを楽しんだり、美味しいものを食べたり……。公園に来るまでの道のりもアトラクションのように楽しんでもらえるんじゃないでしょうか。

吉田>ええ、そうです。あとは車でいらっしゃる方って、混雑する時期は時間がかかるので朝早く出てこないといけなかったりしますよね。それならばいっそ、前日に近くの旅館に泊まって、湊線で公園へ出かけて時間を有効活用してもらったらどうかとか。地域の旅館組合さんや施設と協力できないかと計画しています。温泉もあるし、海鮮だって美味しいし。ひたちなか市に足を運んでくれた皆さんに、より街を楽しんでもらえるようにどんどん新しいプランニングを練っていきます!ひたちなかには海浜鉄道が走っていること、そして海浜公園があること。このコラボの魅力発信に力を入れて行きたいですね。ネモフィラの絶景を見に来たお客さんを、ひたちなか全体でおもてなししていきたい。

内海>実は私も、プライベートで湊線に乗ったことがあります。ちょうどゴールデンウイークの最中にも利用しました。実際に乗ってみて驚いたのが、那珂湊駅で降りていくお客さんの量。あんなにたくさんの方が那珂湊駅で降りるんですね。

吉田>乗客全体の3割ぐらいが、那珂湊駅で降りるというデータがあります。那珂湊の商店街の皆さんが頑張っているんです。ちなみに、ひたち海浜公園のネモフィラハーモニー最終日(2017年は5月14日)には商店街の主催でイベントも企画。(※1)我々ひたちなか海浜鉄道でも周年記念祭を同時開催しています。今年は10周年の節目ですね。

内海>なるほど。もう10年になりますか!私はひたちなか市を離れて20年ぶりに戻ってきたのですが、その間に街や景観もずいぶんと変わりましたね。

※1 那珂湊本町通り商店街振興組合の主催による「みなと再発見フェス」。2018年は5月13日(日)に開催予定です。

変わらない風景にも出会える湊線

内海>昔読んだ本で目にしたのが印象的でよく覚えているのですが、美しい田鏡の中を走る風景がありますよね。中根のあたりでしょうか?湊線の沿線には、昭和の頃から変わらない風景が残っていて、良い意味で古くて懐かしい写真が撮れるんですよね。驚きました。

吉田>そうなんです!勝田駅を出てほんの数駅で、一気に50年、60年前の風景に出会えます。テレビ番組のロケにも使われたりしますし、古い車両を走らせて欲しいという要望もたくさん来ますよ。キハ205とか。

内海>国鉄時代のキハが残っているのはとっても貴重ですよね!以前プライベートで利用したのは、これに乗れると聞いて(笑)

吉田>昭和40年に製造された車両なので、もう53歳ですね。頑張ってくれています。水島臨海鉄道で走っていたキハ20形式が引退してしまったので、現役車両はここにあるだけです。

内海>いやいや、本当に珍しい。色も旧国鉄カラーで。

吉田>それからですね、三年前に来た車両(※2)がまた珍しいもので……

(以下鉄道トークが続きます)

内海>つい白熱してしまいましたが、話を元に戻しまして(笑)車両もそうなんですが、湊線の車窓から見られる景色もお気に入りです。台地から海のほうへ向かうにつれ、地形の変化で変わる風景も素敵で。

吉田>私も、ひたちなかへ来て初めて乗った時に金上駅から先に驚きました。勝田駅を出て大きな工場があったかと思えば5分で森に入って「この先に何があるんだ!?」って(笑)田園風景あり、住宅地あり、それから芋畑が一面広がるところなんて北海道みたいに広々としてますし、ちょっと行けば海が見えて。そして最後には、絶景に出会えるひたち海浜公園がある。ひたちなかって面白い街ですよ。

内海>始点から終点まで、約30分でちょっとしたアドベンチャー気分を楽しめますよね。まるで鉄道模型みたいに、コンパクトな中に色々な要素が収まっている。ぜひ、親子で乗って頂きたいです。社会勉強にもなると思いますし。

吉田>ええ。他者への配慮を学ぶことにも繋がります。公共交通機関での移動経験は、社会適応力にもプラスに働くそうです。女性の鉄道ファンや、「ママ鉄」も増えていますし、ぜひニーズを取り込んで行きたいです。車両に驚いて、車窓に驚いて、そして海浜公園で驚いてほしい。

ひたちなか海浜鉄道のこれから

内海>ひたちなか海浜鉄道さんが取り組んでいらっしゃる取り組みが、2017年度のグッドデザイン賞を受賞されましたね。

吉田>はい。「ローカル鉄道・地域づくり大学」は、ここで培った「鉄道と絡めたまちづくり」を全国規模で一緒に考えて、皆の課題を解決していこうという取り組みなんです。

内海>モノのデザインではなく、取り組み自体が評価を受けたんですね。

吉田>有難いことに、地域の皆さんに愛されてここまで再生することが出来ました。10年間、結構なドラマがありましたよ。駅猫としてマスコットになっている「おさむ」がふらりとやってきて居ついたのも、もう10年前くらいになりますね。ようやく黒字化目前、というところまで来て東日本大震災に見舞われて……正直あの時は厳しかったですが、運行再開後もお客さんが戻って来てくれて。地域の皆さんのおかげで続けられています。

内海>東日本大震災からの復旧は大変だったと思います。再開は、みなさんが待ち望まれていたのでしょうね。全国的にローカル線廃線の話題が注目を集める中で、新駅造成した地域鉄道はなかなかないですよね。

吉田>新駅と言えば、高田の鉄橋駅の駅名を決めた時のエピソードが面白いんですよ。ここの鉄橋には別の名前が付いているので、「なんでこの名前なの?」とよく聞かれるんですが。さあ駅が出来てどんな名前にしようかと考えた時に、とある人が「高田の鉄橋がいいんじゃないか」と言ったんですね。正式には中丸川橋梁という名前なんですが、地元では、昔からこの鉄橋をそう呼んでいると。本当かと思って他の人にも聞いてみるとやっぱり高田の鉄橋だと言う。それならばいっそ「高田の鉄橋駅」でいいじゃないかと決めました。住宅地の真ん中にある駅なんですが、通勤・通学利用の他に、週末のお出かけにも便利だと。最終便で40〜50人降りることもあるんですよ。

内海>良い話ですね!新駅がニーズの掘り起こしにもなっている。

吉田>はい。また新しい駅を増やそうかという構想もあります。その他にも、阿字ヶ浦から先への延伸計画実現を目指しているところです。地域鉄道でまったく新しい延伸計画は他に類を見ないということもあって、まず法制度なども整っていない状況なので……。敷設にかかる予算も大きく、課題はまだまだ多いのでこれからが大変ですが、精一杯取り組みます。ひたち海浜公園とも更に協力して、街を盛り上げていきたいですね。よろしくお願いします!

※2キハ11形。東海旅客鉄道及び東海交通事業で使われていた車両を購入しました。3両が運行中です。

取材協力: ひたちなか海浜鉄道株式会社

所在地: ひたちなか市釈迦町22-28
電話: 029-262-2361
ホームページ: http://www.hitachinaka-rail.co.jp

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国営ひたち海浜公園のある茨城県ひたちなか市。北には東海村や日立市の工業都市、西には水戸市、笠間市といった歴史と伝統が息づく街、南には大洗町や茨城町、鉾田市といった大規模な野菜生産地に囲まれています。地元で暮らす観光マイスターや観光協会に在籍する皆さんに、お散歩したいオススメを紹介してもらいました♪

 


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絶景やおいしい料理など、旅の想い出はいろいろありますが、やっぱり一番印象に残るのはその町で暮らす人たちとの出会い。国営ひたち海浜公園の周辺で暮らす、笑顔が素敵な町の人たちにお話を聞いてみました。散歩のお供に、ちょっと寄り道したくなる素敵な出会い。きっとあなたの旅をホッコリしたものにしてくれるはずです。

 


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地元で暮らす国営ひたち海浜公園スタッフだからこそ知っている、ちょっとマニアックな話をご紹介。周辺観光はもちろん、海浜公園の中のスタッフだから知っている秘密まで!ちょっとしたオタクネタから、一大イベントの裏側、そして海浜公園を支える地元の熱い人たちまで。いろんなジャンルのよもやま話を展開していきます。

 

 

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